となりのひと
ゆいは一人でアパートに住んでいます。仕事はデザインの会社で、毎日いそがしく働いています。となりの部屋には、いつも静かな男の人が住んでいました。
その男の人は、あまりあいさつをしませんでした。エレベーターで会っても、軽く会釈するだけでした。ゆいは「少しこわい人かもしれない」と思っていました。
ある日、ゆいが仕事から帰ると、アパートの入口の近くで小さな子猫が鳴いていました。白と茶色の猫で、とても小さくて、少し汚れていました。
ゆいはその猫を見て、「どうしたの?」と声をかけました。猫は逃げませんでしたが、どこかへ走っていってしまいました。
次の日も、その猫は同じ場所にいました。ゆいは少し心配になって、牛乳を持っていきました。猫は少しだけ飲みました。
そのとき、となりの部屋のドアが開きました。そこからあの男の人が出てきました。ゆいは少し緊張しました。
男の人は猫を見て、「その猫、ここにいましたか」と言いました。ゆいは「はい、昨日からいます」と答えました。
男の人は少し困った顔をして、「その猫は、たぶんうちの猫です。昨日、外に出てしまって」と言いました。
ゆいはびっくりしました。「そうだったんですか」と言いました。男の人は「すみません、迷惑をかけました」と頭を下げました。
ゆいは「いえ、大丈夫です」と言いました。そのあと二人で猫を探しました。猫は階段の下にかくれていました。
男の人はそっと猫を抱き上げました。猫は少しだけ鳴きましたが、すぐにおとなしくなりました。
「ありがとうございました」と男の人は言いました。ゆいは「見つかってよかったですね」と答えました。
そのあと、男の人は少し笑って「いつもはあまり話さないので、怖いと思われているかもしれません」と言いました。
ゆいは少し驚きました。「そんなことないです」と言いましたが、実は少しそう思っていたことを思い出しました。
男の人は「仕事で疲れていて、あまり人と話すのが得意ではないんです」と言いました。
ゆいは「私もあまり話すのが得意ではありません」と言いました。二人は少し笑いました。
それから、二人は時々アパートの前で話すようになりました。猫の話や、天気の話など、短い会話でした。
ある日、男の人は「よかったら、この猫を見に来ますか」と言いました。ゆいは「いいんですか」と聞きました。
それからゆいは、時々となりの部屋に行くようになりました。猫はすぐにゆいになつきました。
ある夜、ゆいは思いました。「となりの人は怖い人じゃなかった。ただ静かなだけだったんだ」と。
それからアパートは、少しだけあたたかい場所になりました。