消えたかさ
高校生の中村あやは、駅前のパン屋でアルバイトをしています。
ある梅雨の日、店の前に置いてあったお客さんのかさが一本なくなってしまいました。店長はとても困って、「だれかがまちがえて持っていったのかもしれないね」と言いました。
ところが、そのお客さんはかなり怒っていて、「高かったのに!」と大きな声を出しました。
あやは申し訳ない気持ちになり、アルバイトが終わったあとも気になっていました。
その翌日、あやは店の近くの公園で、店からなくなったかさによく似たものを見つけました。しかし、持っていたのは小さな男の子でした。
男の子はびしょぬれになった犬を抱いていました。「このかさ、どうしたの?」と聞くと、「駅に落ちていたから使った」と答えました。
さらに、「犬が雨でふるえていたから、早く家に連れて帰りたかった」と説明しました。
あやは少し考えたあと、「正直に話せば大丈夫だよ」と言って、一緒にパン屋へ向かいました。
男の子は店長とお客さんにきちんと謝りました。すると、お客さんはしばらく黙ったあと、「ちゃんと話してくれてありがとう」と言いました。
その帰り道、男の子は「怒られると思ってこわかった」と小さな声で言いました。
あやは「でも、逃げなかったでしょう?」と笑いました。その言葉を聞いて、男の子も安心したように笑いました。