伝統工芸を継ぐ若者たち

古都ことの片隅にある小さな工房こうぼうで、三人の若い職人しょくにん漆器しっき完成品かんせいひんを前に向かい合っていた。

健太は祖父の代から続くうるし塗りのわざ受け継うけついだ三代目である。彼にとって、伝統でんとうとは一切いっさい手を加えてはならない聖域せいいきのようなものだった。「先人がかさねてきたものを、安易あんいに変えるべきではない。まもいてこそ、伝統と呼べるんだ」と彼はがんなに言いった。

それに対し、美咲は正反対せいはんたいの考えを持っていた。「時代じだいわせて変わっていかないことには、誰も買ってくれない。需要じゅようがなければ、技そのものが途絶とだえてしまうじゃない」。彼女は漆器しっき現代的げんだいてき配色はいしょくほどこし、若者向けの小物こもの次々つぎつぎしていた。

二人の議論ぎろんは、平行線へいこうせんたどるばかりであった。健太に言わせれば、美咲の作品は伝統のりた別物べつものすぎない。一方、美咲にとって健太の姿勢しせいは、変化をおそれて衰退すいたいつぶる逃避とうひほかならなかった

だまって二人のやり取りを聞いていた三人目の陽介ようすけが、ようやく口をひらいた。彼は海外かいがい修行しゅぎょうんだ経歴けいれきを持つ職人だった。

ぼくはね、どちらも間違まちがっていないと思うんだ」と彼はおだやかにした。「師匠ししょうよく言っていた。『かたちえても、たましいさえのこっていれば、それはまぎれもなく伝統だ』とね。われているのは、なにのこし、なに手放てばなすか、その見極みきわめなんじゃないかな」

陽介の言葉に、二人ははっとしてだまんだ。たしかに、健太がまもろうとしていたのは技法ぎほうそのものというより、そのおくにある精神せいしんだったのかもしれない。そして美咲がいどんでいたのも、ただ目新めあたらしさをうためではなく、その精神せいしん未来みらいとどけるためだったのではないか。

ようするに、対立たいりつしているように見えて、じつ同じやまちがみちからのぼっているだけなのかもしれない」。美咲がつぶやくと、健太もちいさくうなずいた。「正直しょうじき、お前の色使いろづかいには内心ないしん感心かんしんしていたんだ」と彼はれたように白状はくじょうした。

まどから夕日ゆうひが、ならんだ漆器しっきあからしていた。ふるうつわあたらしい器も、同じひかりけて同じようにかがやいている。その光景こうけいながめながら、三人は言葉ことばわさずとも、たがいにつううものをかんじていた。

受け継うけつぐとは、過去かこそのままかかむことでも、過去かこることでもない。過去かこからったを、さずにつぎ世代せだいへと手渡てわたしていくこと――三人の若者は、そのおもみをあらためてめていた。